法人破産後に会社の借金はどうなるか
法人(会社)が消滅すると、会社が持っている権利も義務も消滅します。
法人破産によって、会社は保有財産に関する権利を失い、債務を返済する義務もなくなります。
会社の社屋や備品があったとしても、会社が消滅すれば「これは我が社のものだ」と主張することはできません。
また、消滅した会社にお金を貸していた人が「私が貸したお金を返せ!」と請求しても、そもそも会社が消滅しているので効果がありません。
事業の継続はできなくなりますが、好転する見込みのない事業を終わらせ、債務を消滅させられるという点で法人破産には大きなメリットがあります。
以下、法人の消滅と法人が負っていた債務との関係、および具体的にどのような債務が消滅するのかなどについて説明します。
1 法人破産の特徴
まずは、自己破産による法人や債務の消滅について、その特徴を詳しく説明します。
⑴ 法人破産では財産が残らない
個人の破産(自己破産)をした場合、その人が保有している財産は処分されますが、一定の財産は処分を免れます。
例えば99万円までの現金や、家具家電や調理器具、寝具や衣類など、自己破産後の生活に必要不可欠とされる財産は手元に残ります。
しかし法人破産の場合、破産した法人には一切財産が残りません。
法人は保有する財産や債務とともに消滅します。
⑵ 非免責債権も支払い義務がなくなる
個人の破産における「非免責債権」とは、自己破産をしても免責されず、支払義務が残り続ける債権です。
例えば以下のものが当てはまります。
・支払いを滞納している税金や社会保険料
・不法行為によって生じた損害賠償の支払い
・養育費
・下水道料金
しかし、法人破産をすると法人は消滅してしまうのですから、法人破産には非免責債権というものがありません。
上記のいずれの債務も支払い義務がなくなります。
2 法人破産で消滅する債務の扱い
法人破産後の債務について、詳しく説明します。
具体的に、どのような債務が消滅するのでしょうか。
⑴ 一般債権
銀行などの金融機関や貸金業者からの借入金や、取引先に対する買掛金その他の一般的な債務は、法人破産によって消滅します。
これらは法人破産の際に、法人の財産を処分してお金に換え、各債権者に配当することで清算されます。
会社の代表者なども、法人の債務を保証していない限り返済をする義務はありません。
⑵ 不動産の滞納賃料
不動産を借りて営業している会社の場合、賃料を滞納した状態で法人破産することもあります。
この債務も、代表者などが保証人になっていない限り消滅します。
不動産を明け渡すときは原状復帰の必要がありますが、その費用がない場合は、基本的に会社の財産や敷金から充当されます。
余った敷金に関しては破産管財人が回収し、債権者への配当などに充てられます。
⑶ ローンやリース料を支払い中の社用車やリース品
これらは基本的にローン会社やリース会社が回収するため、手元には残りません。
リース品の場合はリース契約の途中解除に関して違約金が発生することがありますが、これは会社の財産から支払うことになります。
ローンやリース契約の内容によって状況が異なるので、実務においては弁護士や破産管財人の指示に基づいた対応が必要となります。
なお、ローンを完済して会社名義になっている社用車などは、ローン会社の回収から免れますが、通常は破産管財人によって処分されてお金に換えられます。
⑷ 税金や社会保険料等
会社が倒産するときには多額の税金や社会保険料を滞納していることもあります。
法人組織、特に会社には法人税、法人住民税、法人事業税、地方法人税や、会社の売上に応じて支払う消費税など、多岐に渡る税が課せられます。
また、会社が負担する社会保険料も納める義務があります。
法人破産により会社が消滅すると、滞納している税金や社会保険料の納付義務も消滅します。
自己破産の場合は滞納した税金等の納付義務が残りますが、法人破産では消滅する点が大きな違いです。
ただし、法人の代表者に支払義務が残る場合もあります。
例えば以下のようなケースです。
・消滅会社が合名会社や合資会社:無限責任社員は会社の責任を無限に負うため、消滅した会社の債務を自己の財産で弁済しなければなりません。
・納税保証書を税務署などに提出している:滞納した税金を納付できず、税務署などと相談して分割納付や納税猶予を受けたとします。
こういった場合、分納や猶予を受ける代わりに「納税保証書」の提出を要求されることがあります。
⑸ 社員への未払い給料等
法人破産する会社は、従業員への給与が未払いになっていることもあります。
法的には、従業員は会社に対する債権者です。
労働を提供したことによって、会社から給与を受け取る権利を有しています。
そのため会社が破産すると、従業員は会社の財産からお金を受け取って、労務の提供によって得た債権を回収することになります。
会社の財産は、従業員の労働によって形成されてきたものという側面があります。
そのため、従業員への給与は一般的な債権よりも優先して支払われることになっています。
いずれにせよ支払いの原資は会社の財産ですので、代表者などの個人的な財産から支払うことは基本的にありません。
3 消滅する法人の債務が残るケースはあるか
ここまで見てきたように、法人破産で会社が消滅すると会社の債務は消滅します。
しかし、債務が代表者などに引き継がれるケースがないわけではありません。
例えば以下のような事情がある場合です。
⑴ 会社の代表者などが保証人や連帯保証人になっている
最も多いと考えられるのがこのケースです。
中小企業などは融資を受けるときやお金を借りるときに、社長が個人として会社の保証人となるよう求められることがあります。
会社が破産すると、社長が会社の残債務の返済をしなければならなくなります。
この場合は、社長が自己破産するなどして解決せざるを得なくなります。
⑵ 合名会社や合資会社の無限責任社員
先述のとおり、無限責任社員は会社に対して無限に責任を負います。
そのため会社の財産で弁済しきれない債務があった場合、無限責任社員は自己の財産を使って弁済しなければなりません。
これに対して株式会社や合同会社の出資者は「有限責任社員」と言われ、出資した範囲内で責任を負うことになっています。
たとえば株式会社の場合、出資して得た株式は消滅してしまいますが、それ以上の責任を負うことがありません。
なお、ここで言う社員とは「出資者」という意味であり、従業員ではありません。
4 多額の借金でお困りなら法人破産の検討を
せっかくの会社を破産させるのは心苦しいかもしれません。
しかし、経営が厳しくて債務が膨らむ一方であれば、破産して債務を消滅させた方が今後の再出発も見込めます。
もっとも、「会社の保証人になっているから、法人破産すると自分も自己破産するしかない」とご不安をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
しかし、個人の自己破産では、生活に最低限必要な財産は残すことはできます。
債務を消滅させるメリットは大きいです。
弁護士に相談することで、迅速かつ適切な処理が期待できるので、借金でお困りの際はぜひ当法人の弁護士までご相談ください。